相手は一般人を5人も殺した人間だと思ったら、早く追いつかなくてはと思った。
何人轢き殺そうが止まらないだろうと思ったし、これ以上被害者を出すのはごめんだった。
正直なところ、早く家に帰ってのんびり休みたかったというのもある。
助手席にいる所轄の刑事に、逆走するぞと告げて中央分離帯を乗り越える。
車内に篭るサイレンの音が寝不足で尖った神経を逆撫でしている。
それはあっという間のできごとだった。
緊急車両を避ける車列に、一台のセダンが現れる。
反射的にブレーキを踏むが、間に合わないことは間違いなかった。
ぶつかる直前に思ったのは、教習所で何教わってきやがった、馬鹿野郎。
衝撃。轟音。エアバックの匂い。
痛みより先に、あいつの顔が浮かんだ。


携帯の着信音で目を覚ます。
今日は日曜日で、急な呼び出しなどあるはずもないのに。片倉じゃあるまいし。
そう思いながらも枕元の携帯を取る。
隣にいるはずの男は、数日前から一度も帰って来ていない。
つい数日前に起こった風俗店襲撃事件の犯人を追うために、捜査本部のある所轄署に泊まっている。
いない男に呼び出しがかかるはずがないので、鳴っているのは自分の携帯だ。目覚ましの針は午前6時過ぎ。まだ眠たい。
枕にうつぶせたまま携帯に向かってもしもしと喋った。
『休みか。』
「いきなりアンタに今日の予定を聞かれる言われはないんだけど。つーかなんなの、こんな朝っぱらから。おたくの部下なら所轄にお泊りだよ。」
電話の相手は同居人の上司だった。
普段から冷静な男の声の静かさが、いつもとは種類の違う物のような気がした。
いつもならグダグダと帰って来る嫌味が、今日は沈黙に変わる。
「で、何の用なの?」
のっそりとベッドの上に体を起こして、聞き返す。
今日は髪の毛を切りに行こう。
前髪をかきあげて思った。
『小十郎が事故った。』
「は?え、っと…事故?」
佐助の動きが止まる。
かきあげた前髪をぐしゃぐしゃと掻き回し、パタリと布団の上に指先が落ちる。
「本人は?」
『無線が繋がらねえ。』
「え、なに、そんなひどいの?」
頭が回らない。
ベッドを降りる爪先が震え、指先が震えた。
『詳しい状況は聞いてねえ。今、交機が出てったとこだ。通報してきた後続車両からの話じゃ、パトカーで逆送して正面衝突。車は両方大破。こないだの犯人追って出ってた。火災の危険ありで消防にも要請出してる。新宿だからニュースになってっかもしれねえ。』
聞きながらぐるぐると部屋の中を歩き回る。
笑えばいいのか、泣けばいいのか。それ以前に何を言えばいいのかがわからない。ガチガチと奥歯が鳴った。
『搬送先がわかったらアンタに連絡するように救急には伝えておく。家出る準備はしといてくれ。あと、』
受話器の向こうで淡々と話す伊達の声が途切れ、息を吐く音がした。
『アンタは絶対に運転するな。車で来るならタクシー呼べ。』
わかったな?と念を押され、うん、と放心状態のまま頷いた。とりあえず着替えをと引き出しの中から服を出そうとして、震える自分の指先を見る。
いずれこんな日が来るんじゃないかと思っていた。
小十郎が毎日相手にしているのは人を傷つけ、金品を奪った悪人だ。
彼らはもれなく佐助の職場へ送られて来る。
彼らの中には様々な人間がいる。
自分の罪を見つめる者、悔いる者、罪を罪とも思わぬ者。
そのどれもが、警察を経て佐助の前に現れるのだ。
警察官の仕事がいかに過酷で危険であるかは、一般人よりも心得ているつもりだった。
犯人に傷つけられる可能性も、追っている途中で何らかの事故に会う可能性も、幾度も考えたじゃないか。
それでもアイツを選んだのは、他でもない俺だ。しっかりしろ。
震える指先を拳にして着替えを引っ張り出す。
その後ろで再び携帯がなる。
「はい。」
『猿飛佐助さん?新宿区消防局の者です。片倉さんね、今から◯×病院に搬送しますから。』
「はい。あの、…片倉の容体は?」
『意識レベル下がってきちゃってるから、とりあえず病院まできてもらえる?あなたが来るのね?』
「はい。今から向かいます。」
『はいはい。よろしくお願いします。』
「…片倉のこと、お願いします。」
はいはい、とのんびりした返事を残して電話は切れた。
意識がなくなりそうだと言うことだろうか。
鼻の奥がツンとしてじわりと視界が滲む。
乱暴に熱い目元を拭い、カットソーとジーンズに足を通す。
財布と鍵と携帯さえあればどうにかなるかと考えてタクシー会社に電話する。
住所を伝えて靴を履く。
保留の音楽でさえ佐助を急かした。
途切れた音楽の向こうで、交換手が申し訳なさそうに車が見つからなかったと告げる。
わかりましたと答え、二件目にかけるが、結果は同じだった。
三件目でも断られ、とうとう佐助の苛立ちが目元を濡らす。
ふざけんなよと呻き、四件目を呼び出しながら大通りへ向かって歩き出す。
時々見えるタクシーに手を挙げてみるものの、ほとんどが客を乗せている。
交差点の端に座り込み、込み上げる嗚咽を奥歯を軋ませて噛み殺した。
どうしてこんな時に限ってタクシーが一台も捕まらないんだ。
無力感と焦燥が胸郭を締め付けて離さない。
一度溢れた涙は音もなく佐助の頬を滑る。誰か助けてくれと叫び出しそうだった。
握り締めた携帯が鳴る。ディスプレイに表示された伊達の文字を見て涙を拭い、ひとつ大きく息を吸い込んで通話を取った。
「っ、はい。」
『搬送先、連絡行ってるか?』
「うん。◯×病院て聞いた。」
話し始めてしまえば驚くほど簡単に涙は止まる。
泣いていてもしょうがないのだと言い聞かせ、今から向かうからと言う佐助に、伊達が大丈夫かと声を掛けた。
「大丈夫、ではないけど…とりあえず病院行かないと始まらないし、タクシー捕まんねえし。」
『車、回してやろうか?』
「いいよ、税金の無駄遣いだろ。職権乱用だぞ。」
『非常時だろ。』
「そんなことよりとっとと犯人捕まえろよ。片倉の仇だぞ。俺が担当になったら絶対ェ無期懲役にしてやるからな。覚えてろよ。」
チクショウと吐き出す声の痛々しさに一瞬黙った伊達は、俺もこっちが落ち着いたら行くからと言って電話を切った。
切れた電話のリダイヤルから一件目のタクシー会社を呼び出して、今度こそようやく車をつかまえる。
すぐに来たタクシーに乗り込み、◯×病院まで急いでくれとだけいって目を伏せる。
途端に恐ろしいほどの孤独が佐助を襲う。
一度は収まった手の震えがぶり返し、堪えきれない涙がはらはらと佐助の白い頬を伝った。
「お客さん、具合でも悪いのかい?救急車呼ぼうか?」
行き先と佐助の様子から勘違いしたらしい運転手がチラリと気遣う視線をリアシートに向ける。
それに緩く首を振って、具合が悪いのは俺じゃないんだとだけ掠れる声で返す。
そうかい、と言った運転手が強くアクセルを踏み、佐助の脱力した体がシートの上で揺れる。
どうして幸せになろうとするとそれを邪魔するものが現れるのだろう。
ただ小十郎とふたり、静かに暮らしたいだけだ。
タクシーのエンジン音を聞きながら数年前を思い出す。
あのときもこうしてタクシーで病院へ向かっていた。
今と違うのは、あのときは隣に小十郎がいた。
父親が仕事現場の足場から落ちた。階数にして5階。
助かるはずもなく、父親は死んだ。
あのとき、泣き崩れて動けなかった佐助の手を引いて病院まで連れて行ってくれたのは小十郎だ。
その1年後、警察官になると言った小十郎に、病院に呼び出されるなんて二度とまっぴらだと言って泣いた。
小十郎はそれでも俺はそんなことしねえよと言って警察学校へ入学して行った。
人を疑い、犯人に手錠をかけ、市民のためなら命を捨てる覚悟も辞さないのが警察官だと、警察学校を終えた片倉は言った。
テメェはそれでも俺といてくれるか?と、真摯な瞳で佐助を見た小十郎に、ついて行くと決めたのは自分だ。
それを覚悟して、一緒にいることを選んだのは、自分なのだ。
そう思って震える指先を握り締める。
しっかりしろと自分に言い聞かせて。
「あちゃ、反対車線で事故だねえ。ちょっと時間かかるけど迂回するかい?」
スピードの落ちた車内で、運転手が声を上げる。
窓の外には赤色灯が回っている。
「こっちの車線はそんなに混んでないから、ここ突っ切って。」
今は一秒が惜しい、そう思ったのが間違いだった。
右の車窓。まだそこに残る事故車両はシルバーのセダンと、モノクロの警察車両。
ここだったのかと佐助の肩が震える。
フロントがぐしゃぐしゃにつぶれ、フロントガラスが割れ落ちたそのパトカーの運転席に、小十郎がいたのだ。
運転席の扉が外れて落ちているのが見える。
助手席に誰か乗っていたのかもしれない。
運転席側が無惨に潰れていた。
見るなと叫ぶ頭の片隅に反して、佐助の視線は事故車両から離れない。
無事では済んでいないかもしれない。
手足の一本くらい取れているかもしれないし、もう二度と目が覚めないかもしれない。
呼吸が引きつれてうまく息が吸えない。
込み上げる涙と嗚咽を飲み込もうとしてしゃくり上げる。
おねがいだから、彼を俺から奪わないで。
祈るように両手を握り締めた。


病院の正面玄関に止まったタクシーを釣り銭も受け取らずに転がり落ちるように降りて、夜間入り口をくぐる。
行き過ぎる看護士を呼び止めて事故で運ばれてきた片倉の、と叫ぶ。
処置中ですからこちらでお待ちくださいと待ち合いに通される。
慌ただしく看護士が走り回るその場にいるのが苦しくて、裏口から外へ出る。
ポケットに押し込んだままの携帯を出して伊達の番号を呼び出した。
『はい、伊達。』
「あ、悪ぃ。俺。」
『病院ついたか?』
「現場、見ちゃった。」
『は?』
「たまたま、その、…タクシーでさ、通った…あんな車ぐしゃぐしゃで…片倉、…おれ、どうしよう…」
どうしようと繰り返してその場にしゃがみ込む。
嗚咽が止まらない。
受話器の向こうで警視と呼ぶ声がする。
胸が苦しくて、頭が熱くなって痛い。寝不足なのがいけないんだと思った。
『小十郎には会ったのか?』
「…まだ、処置中…って」
『とりあえずアイツのこと信じてやれ。俺だって行けるもんなら今すぐ行きてえが、犯人をアンタの職場に送るのが先だ。もうすぐ捕まえるから、そこでおとなしくしてな。』
「っ…、ん」
じゃあなと言って切れた電話を握り締め、覚束ない足取りで待ち合いに戻る。
さっきはいなかった小さな子供を連れた若い女性が、佐助と同じように泣きはらした顔をしてベンチに座っていた。
その隣にそっと座って震える指先で携帯のストラップを弄ぶ。
それを見ていた子供が佐助のストラップを指差してキレイね、と笑う。
そうねと答えた女性が大きく肩を震わせて両手で顔を覆った。
もしかしたら、小十郎が突っ込んだ車の運転手の奥さんかもしれないとぼんやり思った。
「あの、もしかして…さっきの事故の…」
声を押し殺してなく女性の肩の細さに居たたまれなくなって声をかける。
化粧も何もしていない綺麗な二重の目が佐助を見て、困ったように伏せられる。
「…ウチの主人が乗っていたパトカーなんです。」
「片倉の、運転してたパトカーの…」
「警察の方ですか?」
兄弟とも親族とも言えずに、片倉は大切な友人なんですと答える。
「いつか、こんなことになる日が来るんじゃないかって、思っていたんですけど…いざこうなってしまうと…どうしたらいいかわからないものですね…」
困ったように笑い、涙を流す女性に掛ける言葉もなく俯いた。
小十郎が起こした事故で、こんなにも悲しんでいる人がいる。
幼い子供を連れて遺されるかもしれない彼女の哀しみに比べれば、自分などたいしたことないんじゃないかとさえ思えてきた。
それでも涙は止まらない。
脳裏に浮かぶぐしゃぐしゃに壊れたパトカーと割れて散らばるフロントガラス。
もう誰も助からないのではないだろうかとさえ思う。
俯いて何も答えられずにいる佐助に、女性はそっとハンカチを差し出した。
「大丈夫ですよ、きっとお友達も主人も、無事に戻ってきますから。」
涙をいっぱいに溜めた瞳で気丈に笑う彼女にそうですねと返してカットソーの袖で涙を拭う。
おにいちゃんないてるの?と子供が佐助の顔を覗き込んだ。
「おにいちゃん、だいじょうぶ?いたいの?とんでけしてあげようか?」
「お兄ちゃんは大丈夫だから、ママのことぎゅうってしてあげな。」
「ままはぱぱにぎゅうしてもらうから、だいじょうぶなんだって!」
そう言って母親を振り返る子供に頷いた彼女が看護士に呼ばれて処置室に入って行く。
おにいちゃんばいばい!と手を振る子供に力なく手を振りかえし、大きく深呼吸をする。
涙を飲み込み、静かに小十郎を待つ。
大丈夫、俺だって片倉に抱き締めてもらうから。今頃伊達が犯人捕まえてそのうち俺のところに来る。何があったって無期懲役で刑務所に放り込んでやる。
俺はそれだけの能力を持ってる。あとは片倉、お前が戻ってくるだけだ。
いつの間にか震えの収まった手を握り、もう一度涙を拭う。
「片倉さんのご家族の方ですか?」
「あ、えっと…はい。」
「処置終わりましたから、中どうぞ。」
「あの、片倉、喋れるんですか?」
「ええ、意識もハッキリしてますし大丈夫ですよ。」
「入院とかは、」
「多分このままお帰りいただけると思います。」
そう言った看護士に連れられて入った処置室の中で、片腕にギブスをはめた警察官がさっきの女性を抱き締めているのが見えた。
足元でぱぱわたしも!とはしゃぐ子供の声だけが静かな処置室に響いている。
その向かい側のカーテンを開けた看護婦が、いま先生呼んで来ますからと言って去って行く。
「片倉。大丈夫?」
ストレッチャーの横に立ち、寝かされた小十郎を見下ろす。
思ったより顔色も悪くなければ、きちんと目も開いている。
「ああ、生きてる。」
低い小十郎の声がした。
さっきまでとは違う涙が佐助の目頭を熱くした。
「痛い?」
「大して悪くねえよ。泣くな。」
「泣いてないよ…手も足も、くっついてる?」
「ああ。くっついてる。一緒に乗ってたやつ、大丈夫か?」
「うん、向こうにいる。大丈夫そうだよ。奥さん超泣いてたけど。ていうか、自分の心配しろよ。ばか。」
「アイツが大丈夫なら次はテメェの心配だ。そんなに泣くなよ。」
小十郎の武骨な指先が佐助の涙を拭うが、拭われたそばから溢れ出す涙は止まらない。
生きていた。
それだけで全てがどうでもいい。
佐助が小十郎の手を握っり、あったかいと呟いた後ろでカーテンが開いた。
「片倉さん…の弟さん?」
「え、いや…」
「そうです。」
小十郎が答えると医師はそう、と答えてレントゲン写真を指差した。
「とりあえず右足と左の肋骨2本折れてるから暫くは安静に。仕事の方も休めそうだったら暫く休んでもらって…ちゃんとくっつくまで3ヶ月くらいは見てもらわなきゃダメだと思うんだけど、通いはキツかな?」
「できれば紹介状書いてもらえると助かります。」
「じゃあ今から書くから、会計で受け取ってもらえる?入院の必要はないと思うけど、頭も打ってるから暫く様子見て気分悪くなったりするようだったらまた病院かかって。じゃあもう帰ってもらっていいよ。」
お大事にと続けた医師は看護士に松葉杖ねと言い残して去って行った。
死んでるんじゃないかと思ったのに思いの外軽症ですんだなとほっとする反面釈然しない気持ちになる。
「帰るか。」
「帰るけどさ、なんか心配して損した気分だな。」
「なんだそりゃ。」
「こっちは片倉死ぬかもと思ってめっちゃ泣いたんだけど。挙げ句の果てには伊達に電話して泣いたんだよ、俺。」
「恥ずかしいヤツだな。」
言いながら松葉杖をついて小十郎が立ち上がる。
お世話になりましたと看護士に頭を下げて会計に向かう。
「何だろうこの釈然としない感じ。」
「じゃあ死んでれば良かったか?」
「バカいうなよ、せっかく助かったのにさ。つうかあんだけ車ぐしゃぐしゃでよく骨折だけで済んだよな。」
会計の前で先程の警察官家族が待っている。
「片倉警部補。ご無事で。」
「ああ、悪かったな。巻き込んで。奥さんまで泣かせちまったみたいだしな。」
「いえ…警部補がとっさにハンドル切ってくれたおかげで命拾いしました。」
「ぶつかったとこが良かったんだろ。」
本当に助かりましたと頭を下げる警察官によせよと言って照れている小十郎の横でさっきの女性に頭を下げる。
じゃあ自分はこれでと言って敬礼する父親のマネをした子供にも律儀に敬礼を返した小十郎はどさりとベンチに座った。
「避けたから運転席がぐちゃぐちゃだったわけ?」
「現場いったのか?」
「ここに来る途中でタクシーで通った。見た瞬間アンタ死んでんじゃないかと思った。」
「まあ心配かけたな。」
そう言って小十郎の暖かい掌が佐助の頭を撫でる。
うん、と頷いて伊達に電話してくると言って病院を出る。
受話器の向こうで伊達はアイツ頑丈にできてんなと笑い、犯人確保の知らせを伝えた。
『落ち着いたら見舞いに行くって言っといてくれ。』
「わかった。さっさと送検してよね、そいつ。」
『わかってる。ま、アンタじゃなくても無期懲役だろうな。余罪が山ほどでてきた。』
「あっそ。どうでもいいよ、片倉が無事に帰ってきたから。」
『現金だな、アンタ。』
まあねと笑って電話を切った。
会計を済ませてでてきた小十郎と合流してタクシーで自宅へ向かう。
泣いた目蓋が腫れぼったい。
窓の外は綺麗な青空だ。
髪を切りに行こうとしていたことを思い出した。


タクシーを降りて自宅の玄関を開ける。
疲れたと喚く佐助の後ろで、悪かったなと小十郎が言った。
「せっかくの休みだったのにさあ。」
「安心しろ、今度はしばらく俺が休みだ。」
「片倉だけ休みでも仕方ないじゃん!」
何気なく付けたテレビでは犯人確保と、それに伴う事故の話題で賑わっていた。
ここに張本人がいるのにね、と笑い、ソファに座る小十郎の隣に座った。
「おかえり。」
「ただいま。」
抱き寄せる小十郎の肩に頭を預け、滲んだ涙を拭った。

End

言っただろ、俺はお前を遺して逝ったりしない。

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