綱元と別れた小十郎は、綱元に教えられた小間物屋に顔を出し、外れにある神社の境内をくまなく探した後、長屋が集まる地区へと馬を引いて歩いた。
やはり馬は綱元の屋敷にでも置いてくればよかった。町中で馬は邪魔すぎる。
それを感じ取ったのか、葦毛が不服そうに鼻を鳴らす。宥めるように毛艶のいい脇腹を撫でた。
結局、成実は見つからないままだ。
政務に嫌気がさして城を抜け出した政宗はあっさりと見つけることができるのに。そう考えて小十郎は如何に自分が成実を知らないのかを思い知らされた気分だった。とっくの昔に陽の暮れた空は闇の帳を下ろしている。
あの使用人の言うように、腹が減って屋敷へと戻っているかもしれない。長屋から漂う夕餉の薫りに、小十郎も微かな空腹を自覚した。
とぼとぼと辿り着いた成実の屋敷の前で馬と共にぼんやりとすっかり暗くなってしまった空を見上げる。
もう成実は戻っているかもしれないが、綱元が戻るまで声をかけるのはやめようと思った。またあの優しい老人にいらぬ心労を掛けてしまう。
城での成実の様子を思い返して、やきもきする心を鎮めるために冷たい空気を吸い込んだ。
あのとき、自分も成実の言う通りだと思うと一言告げて政宗を諌めていればこんなことにはなっていなかったのかもしれない。
それは綱元にも同じことが言えたが、日頃成実と仲良くしている綱元の出方を窺ってしまったという経緯がある分、小十郎には拭えない罪悪感にも似た感情が残っている。
それについては成実に謝罪し、政宗も今頃考え直しているはずだからと、次の招集までの間をどうにか保たせなくてはならない。
やはり重労働だ。

溜め息を吐き出した小十郎が目頭を揉んでいると、正面から馬の足音が聞こえた。
耳を澄ませてその数を確認する。単騎ではない。おそらく二騎の馬がこちらへ向かっている。
次に漏れたのは安堵の溜め息だった。

「ほら、待っていたでしょう?」
「うるせーな。」

小十郎の前で馬を止めた綱元が軽い身のこなしでその背から降り、未だ気まずさから馬上にとどまる成実を見上げた。
見上げる綱元の目元は柔らかい。対する成実の態度もつんけんしていることに変わりはないが、いつも通りのふたりだ、と小十郎は思った。

「説教が嫌で俺が見つけなかったら逃げ回るつもりだったそうですよ。」
「綱元っ!」
「全く、成実さんは…いい加減ご自身の御身のある立場をご理解いただきたいものですな。」
「さ、随分冷えてきましたし、話は中でさせてもらうことにしましょうか。」

いつもの調子のふたりのおかげで、色々と思い悩んでいた小十郎の渋面がすこしだけほどけ、成実を諌める言葉が口をついた。
それを見た綱元が長くなる前に、と門の脇の通用口の扉を押し開けた。
成実も渋々と言った様子で綱元の後に続き、小十郎も葦毛の手綱を引いて後を追った。
迎えに出た老人に人好きする笑顔で夕餉をご一緒させていただいても?と問う綱元の表情は昼間の沈んだ様子が嘘のように晴れやかだ。道中で成実と和解できたのかもしれない。
問われた老人はもちろんですと、柔らかく笑って竈の方へと足を向けた。増えてしまった人数分の食事を用意するのだろう。
その老人の背中を成実が呼び止めた。

「あ、爺。」
「なんでしょう?」
「前に政宗が送ってきた酒があっただろ。」
「はい、ございますよ。お出ししますか?」
「うん。」
「…若も大きゅうなられましたな。」
「はぁ!?」
「いえいえ、先程片倉様とお話しした折に、若ももう立派なお侍ですからと申し上げておきながら、この爺ときたら道に迷って腹でも空かせてはおらんかと心配してしまいましてな。」
「自分ちに帰るのに迷う阿呆がどこにいるんだよ…」
「ほれ、政宗様とお二人で勝手に遠乗りに出掛けて帰って来れなくなったことがあったではありませんか。」
「あんなの元服前の話だろ!?」

恥ずかしいからやめてくれ、と左手で顔を覆った成実の口元が僅かに綻んでいるのを見た小十郎がぷっと吹き出した。顔を上げれば綱元もにやにやと成実を眺めている。
笑うふたりに気付いた成実が笑ってんじゃねぇ!!と顔を赤くしながら怒鳴るが、小十郎はじいやとはうまい酒が飲めそうだと声を立てて笑った。



夕餉の膳が用意された一室で、三人はそれぞれにおもしろいメンツだと思いながら用意された料理と酒に手を付ける。
誰も昼間のことについては触れないのがじれったくもあり、どこか心地よくもあった。

「小十郎はこんなとこで暢気にメシ食ってていいのかよ?」
「政宗様のことでしたら、先程お叱り申し上げておきましたので今頃どうやって成実さんと仲直りすればいいか考えていらっしゃるところでしょうな。」
「これは成実さんも今夜布団の中で唸るしかありませんね。」
「っていうか俺悪くねぇし…」

間違ってるとも思ってねぇよ、と不服げに呟いた成実は盃に残っていた酒を一気に煽った。
政宗が前言を撤回しなければ出奔も辞さないというのは成実の本心であったし、何よりそんなことのために命を落とすのは御免だった。ただでさえ先の豊臣との戦で命を賭して守られ、重みを増した命である。
そう易々と放り出すわけにはいかない。

「ええ、成実さんは間違っていませんな。小十郎も成実さんのお考えと同じです。ただ…主である政宗様にあの態度では困りますな。」
「…俺、綱元に引っ叩かれたけど。」
「それについてはきちんと謝ったじゃないですか。ですから、成実さんも謝ってくださいね。」
「悪いのは政宗だろ!?」
「成実さんもお茶ぶっかけたじゃないですか。」
「それは…ほら、つい…」
「かっとなってやってしまったことでも、政宗様は随分とお心を痛めておいでだ。」

成実は膳の上の干物をざくざくと箸で刺して遊んでいる。行儀が悪いです、と綱元が言うと、溜め息を吐いて箸を置いてしまった。

「成実さん、そろそろ毎回お二人の間で右往左往する俺たちの苦労も察してもらえませんかね。」
「別に…そんなつもりじゃ…」

突然核心を突いた綱元の言葉に、言われた成実よりも小十郎の方が驚いた。思わずぽかんと口を開けて綱元の方を見るが、綱元は大丈夫とでも言うように目配せをして苦笑した。
小十郎はただ黙って焦りを隠すように盃を煽る。政宗から贈られた酒だと言うだけはある。すとんと胃に落ちていった。

「あなたが政宗様とどう接したらいいかわからないのはわかります。扱いが違うことに不満を感じる気持ちも。でも、政宗様は誰をたよりにされればいいんですか?輝宗様亡き今、血の繋がった、しがらみのない人間はもうあなたしか残っていないんですよ。」
「俺じゃなくても…小十郎だって、お前だっているし…」
「俺たちはどれだけ政宗様を想っても、あの方と血の繋がりを持つことはできないんですよ。主従なんていつ破綻してもおかしくない。俺や小十郎が暇を申し出ない保証なんてないでしょう?血縁は何があっても切れないものです。それを、もう少し大事にしてください。」
「俺にだって…誰もいねぇよ。お前らは政宗の家臣だし、爺だって、いついなくなるとも限らない。それの代わりに政宗と仲良くしろって?俺からいろんなもの持っていった、アイツと?…これ以上、何をやれって言うんだよ…。」

ふたりの会話を聞きながら煮物を口に運んでいた小十郎が、ぱちんと箸を置いた。

「小十郎も、綱元も、確かに政宗様の家臣ですが、成実さんもそうではありませんか。同じように伊達を、政宗様をお守りするべき人間です。」
「それならそういう風に俺のことを扱えばいいのに、アイツは変に俺を特別扱いする。そう言うところがむかつくんだよ。なんでも取り上げてきたくせに、急に従兄弟の顔して…仲良くやってりゃ俺が言うこと聞くと思ってんだろ!?」
「そんな打算だけであなたを大切にするような方ではないことは成実さんが一番よくご存知だと思っていたが。少なくとも小十郎の目には、ただ純粋に従兄弟であるあなたとの関係を取り戻したいだけのように見えますが。」
「じゃあ俺はどうすりゃいいんだよ!?家やお前らのために政宗の望む通りにしてやってりゃいいってのか!?」
「では、政宗様に直接気に入らないとおっしゃればいい。行き過ぎれば謀反にもなりましょう。できれば政宗様にはこれ以上お身内のことで傷付いていただきたくない。」
「は、政宗と仲良くできねぇなら出てけってことか。いいよ。じゃあそうするから。」
「成実さん!小十郎も、言いすぎです。」
「出て行くつもりなら小十郎は止めません。お好きにされるがいい。」

吐き捨てた小十郎が立ち上がり、折り目正しく部屋を辞していく。
小十郎を追うべきか、とどまって成実を宥めるべきか悩んだ綱元はその場で成実と小十郎の出て行った襖をただ見つめるだけだった。

「お前も、帰れよ。」
「成実さん、お願いですから出て行くなんて…」
「ここにいたら小十郎にどやされるぞ。」
「さっきのは小十郎が言いすぎですから、出て行くなんてこと考えないでくださいね。」
「元々考えてたことだから、時期が来たってことじゃねぇの?もう限界なんだろ。俺も、政宗も。」

成実は傍らに置いてあった政宗からの賜り物であると言う酒を手酌で盃になみなみと注いでそれを一息に煽った。飲みきれなかったそれが顎を伝い、首筋に流れる。
涙のようだ、と綱元は思った。

「出て行かないって約束してくれるまで、俺は帰りませんよ。」
「もういいから。」
「どうしてそんなに簡単に諦めるんです!?どう頑張っても解決できないから逃げるんですか!?」
「ああそうだよ!!政宗からも、伊達からも、お前からもな!!」
「それが稀代の勇将と名高い伊達成実の底ですか!?俺はそんなこと信じませんよ。どんな敵でも一番につっこんでいくあなたが、同世代の従兄弟と仲良くできないから出奔ですって?諦めないできたから、今、伊達の一番駆けやってるんじゃないんですか?政宗様は、あなたのことを信用して一番の誉れを小十郎ではなくあなたに託しているんですよ。どうしてそれをわからないんです?」
「…もういい。明日政宗に会ってから大森に戻る。」
「約束してくれるまで動きませんと言ったはずです。」
「出て行く時には一番に連絡してやるよ。いいから帰れよ。ひとりにしてくれ。」

立てた膝の上に小さな頭を埋めて、成実は呻くように言った。
これ以上はできることもないと思った綱元は、再び最悪の事態を脳裏に描いて薄い唇を噛んだ。庭の虫の声さえも今は煩わしい。
立ち上がった綱元は、成実の頭を撫でてその正面にしゃがんだ。相変わらず成実の頭は伏せられたままだ。

「小十郎は確かに言い過ぎましたが、一度政宗様ときちんと向き合ってください。出て行くのはそれからでも遅くないはずです。ひとりが嫌なら、俺も明日一緒に行きますから、政宗様のところに行く前に声を掛けてください。」

いらえはない。しかし、綱元は眉間に皺を寄せたままごちそうさまでしたとだけ呟いて部屋を出る。
途中、廊下で出くわした家人に成実の後を頼み、冷えた空気の中を自分の屋敷へ向かって歩いた。
取り残された成実は、綱元の予言どおり膳を下げさせた部屋の畳の上で膝を抱えていた。今ばかりは小言のひとつも言わない爺の優しさが暖かい。
知っているのだ。政宗が成実を大切に思っていることも、奪おうとして奪っていったわけでもないことも。失うことの哀しみを、政宗は誰よりもよく知っていることを。
喪失の哀しみに暮れる政宗を、成実は近くで見ていたのだから。
それでも許せなかったのは、自分の子供じみた独占欲や醜い嫉妬だということもよくよく理解はしている。
しかし、成実も政宗も、その感情を御するにはまだ幼い。綱元や小十郎はそれを酷だと知りながらそれを強いる。彼らは領民の上に立つ人間でいなくてはならないからだ。
気に入らないことも、許しがたいことも、この世の中にははびこっている。その数だけ戦が起こり、人が死ぬ。それを止めるためには、嫌でも応と言わねばならない時が必ずやってくるのだ。綱元と小十郎はそのことをよく知っている。
それを許せるだけの器量を持てと言われているのだということも、わかる。それでも、人を許すことは難しい。
許しもせず、ただ突っぱねる自分は、まだどこかで従兄弟の政宗に甘えているのだろうな、と成実はぼんやりと光る月を眺めて思った。月光の色は鋭い白だ。 きっと、失えないのは成実も同じなのだ。



翌朝、三人の間にあった事など露ほども知らない政宗は、小十郎に言われた事を反芻していた。
豊臣を攻めるという件についてはすでに心は決まった。これから奥州には厳しく長い冬が訪れる。
毎年どうにかこうにかそれを乗り越えるが、そのためには男手が必要だ。屋根の雪をおろし、道の雪をどけるにも、雪深い山で薪を手に入れるにも、女子供では頼りない。
そんな中、政宗が男衆を連れて戦に出てしまうのは、疲弊したこの国にとっては大きな打撃だろう。
戦に勝って戻ってみれば、国がボロボロになっている事は想像に難くない。
そんな状況も顧みずに豊臣攻めるとのたまった自分をぶん殴ってやりたいくらいだった。
成実が正しかったのだ。
しかし、成実にそれをどう伝えるべきなのかがわからない。悪かったと素直に頭を下げればいいだけの事かもしれないが、出て行った成実の見捨てたような冷ややかな視線を思うと、その勇気さえもしおしおと萎えてしまう。
主として成実に軽蔑される事は政宗にとって大した問題ではないのだ。
そんなことで愛想を尽かされるなら、小十郎にしろ綱元にしろ、とっくにいなくなっているだろう。それだけ、自分は主として未熟だということも理解している。
成実と己の間にある確執は思よりも深い。成実の父親が死んだ時、政宗は自分が成実から奪ってしまったものの大きさを知ったのだ。そんなつもりはなかったと言っても、結果的にはそうなった。それに気付かなかったのは政宗の落ち度でもあると思っていた。
そして、また、成実は大切にしていたものを失った。他でもない伊達のために。
慰めればいいのか、謝ればいいのか、政宗にはわからない。ただ、成実がいなくなってしまうのだけは嫌だと思う。失わせた自分が、失いたくないと思うことは、おこがましいのだろうか。
書きかけていた筆を硯に置き、政宗は盛大なため息をついた。

「政宗。」

暫くぼんやりと障子の向こうを眺めていた政宗は、突然かけられた声に飛び上がりそうなほど驚いた。
成実だった。

「明日、大森に帰るから。挨拶だけ。」
「そんなに、急ぐことねぇだろ?」
「べつ、こっちいてもすることもねぇし。」
「まだ、どうするか決まってねぇ…」

政宗の返事も待たずにずかずかと上がり込んだ成実は政宗から離れたところに腰をおろした。
視線は交わらない。

「政宗の好きにしろよ。俺はどうでもいい。でも…もう、俺失いたくないんだわ。豊臣攻めるっつーなら止めねぇけど、俺は下りる。出てけっつーなら出てくし、」
「出ていけなんて、いわねぇ。今の奥州じゃ結果は見えてる。今はもう攻めるなんて無茶はいわねぇよ。」
「そっか…」
「ああ。だから、出て行こうなんて、考えんじゃねぇ。」

昼間はまだ暖かい日差しが畳の目に影を落とす。
蝉のいなくなった静寂だけが横たわっている。

「…悪かった。」
「思いとどまったんなら謝られる謂れはねーよ。」
「そうじゃねぇ。俺が、無茶したからお前の家臣を死なせた。あいつだけじゃねぇ。お前の親父さんも。」
「……。」
「謝ってどうにかなることだとは思わねえ。でも、俺はお前が必要だし、これからも一緒に伊達を守って行って欲しいと思ってる。だから、」
「お前さ、俺にどうして欲しいの?家臣として付いてこいっていうなら、他の奴らと同じに扱えばいいし、いとことして付き合いてえと思ってるならそうすりゃいいじゃん。お前のその中途半端なとこが気に入らねえんだよ、俺は。」

胡座をかいた成実がチラリと視線をよこす。
政宗は俯いた。成実に気に入らないと直接言われたのはいつぶりだろうか。あの頃は今ほどのしがらみもなく、ただ声高に物を言えていたのに。
言えなくしていたのは自分だったのかもしれないし、成実が勝手に言わなくなっただけかもしれない。

「俺は、お前のこと家臣だと思ったことはねえ。」
「じゃあそれでいいんじゃねーの。俺はどっちにしろ伊達のために色んなもん失ったし、伊達なんて滅びろって今でも思ってる。お前も嫌いだし、小十郎もムカつく。綱元もどっち付かずでわかんねーし、みんなお前がいればそれでいいんだろって思ってる。だけど、俺はいとこがいなくなっても平気なほど薄情じゃねえから、大嫌いな伊達のために、これ以上何も失わないように強くなる。」

虚空をさまよっていた成実の視線がまっすぐに俯いたままの政宗を捉え、揺るぎない強さで定まる。
成実の意外な言葉に政宗は虚を突かれ、長い前髪の隙間からチラリと成実を見上げた。

「丸…許してくれんのか?」
「許すも何も、どう足掻いたって戻りやしねーんだよ。だから俺は前に進むだけだ。」
「怒ってたんじゃねぇのか?」
「お前がはっきりしねーから、ムカついてただけだよ。泣き虫の梵には俺がいなきゃダメなんだろ?いとこ見捨てるほど落ちぶれてねーよ。」

成実の言葉に、政宗があからさまにムッとして言い返す。

「誰が泣き虫なんだよ!」
「小十郎がいなくてぴーぴー泣いてたじゃねぇかよ!」
「HA!!そんな昔の話、しらねぇな。」
「すっとぼけてんじゃねーよ!俺がいねぇと悪戯の一つもできなかったくせに!今だって俺が一番駆けしてやってっから伊達軍の士気が上がるだけで、お前一人じゃ何もできねーんだろ?」
「人が下手に出てりゃいい気になりやがって…どっちが強えかわからせてやるから、刀抜けよ。」
「ああ?望むところだ!」

二人が鯉口を切り、今まさに抜刀しようとしたその時、すぱぁんと小気味いい音を立てて襖が開いた。
感情の読み取れない瞳を形ばかりの笑顔に爛々と輝かせる綱元と、常の倍は眉間の皺を深くした小十郎がそこにはいた。

「はい、そこまで。斬り合いなら外でやってくださいね。襖だの畳だの駄目にされちゃ困るんで。成実さんが来たっていうから様子を見に来て正解でしたよ。」
「げっ!綱元!?」
「政宗様、確かにこの小十郎、成実さんと仲直りしてくださいと申し上げましたが、室内でチャンバラごっこをしてくださいとは一言も申し上げておりません。すこしは自重という言葉を覚えてはいかがですか?」
「こ、じゅうろ…!おい、丸!!逃げるぞ!!っていねぇ!?」

逃がしませんよとでも言うように政宗の襟元をむんずと掴んだ小十郎が目配せをすると、綱元が静かに部屋を出て行く。
急いで城を出たところで、成実が綱元に早駆けで勝てたことなどただの一度もないのだ。すぐに捕まって連れ戻された。
昼をすぎて夕暮れ近くまで二人に説教されるふたりの姿が仲良く並んでいた。

End

こんな…はずじゃ…なかったのに。

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