親 愛 な る 君 に 告 ぐ 、

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風のように戦場を舞い、手にした闇を纏う手裏剣で目の前に迫る雑兵を薙ぎ、逃げ出す暇さえ与えず止めを刺す。
突き出される槍を避け、飛んで来る矢に空蝉の像を差出し、後ろを取られたとさえ気取らせずに短刀を振り下ろす。
その背には気配は愚か、何の感情も見て取ることは出来ない。
これが忍と言うものか、と酷く冷めた頭で思う。
その忍の背を追いながら、隣で炎の槍を奮う虎若子を見遣る。
敵を薙ぐ度に眉間に皺を刻み、切なげに柳眉を下げる様を盗み見て、胸にじんわりと安堵が広がるのを感じた。





これが、『人』としての正しい反応か。





無感動に敵を薙いで行く忍が気遣わし気に主を振り返る。
その端正な顔に飛んだ忍化粧とは違う紅を見て自然と顔が歪むのを感じた。
日の落ちた刻の戦だからと身に付けている見慣れない漆黒の忍装束のせいか、己の知る忍ではないように思う。
しかし、闇夜に浮かび上がる白い肌と鮮やかな橙は残酷にもその忍が彼の忍であることを知らせている。
ギリ、と唇を噛んで脇から飛んできた矢を六爪で叩き落とす。
後から己の右目に背中の守りの甘さを指摘され、気を引き締める。


秘かな恋情を募らせる忍の豹変振りを憂いている場合ではない。
そう自分に言い聞かせて六爪を構え直す。
目指す本堂には宿敵・魔王信長が待っている。
忍の横に飛び出し、忍に鉄砲を向ける兵を薙払った。
ちらりと敵に短刀を突き刺す忍を盗み見て、その口元に歪な笑みを見つけ、思わず息を詰める。










こいつは、俺の手に負えるような相手じゃねぇ。










人で在ることを辞め、殺人に痛む心を捨てたこの忍は、己が思うより深い闇に棲み、生存本能だけを信じて生きている。
そして今夜も殺人に昂ぶった熱を治めるために自分を求めるのだろう。
愛や恋慕など、この忍に求めるだけ虚しく、返ってくるのは作り物めいた睦言だけなのだ。
忍を絡め捕る闇から解放してやりたいと重なる低い体温に常々思っていたが、それはどうやら己の勘違いであったか。


彼の人は囚われているのではない。
望んでその闇に身を置いているのだ。
そこまで理解してなお止まない恋慕の情に苛立ちとも絶望ともつかない焦燥を感じて、進路を塞いだ敵の黒い忍装束を蒼い稲妻で焼いた。



End

佐助を掬い上げられるのはこじゅだけだといいなと言う妄想。


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