親 愛 な る 君 に 告 ぐ 、

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昼間眠ったせいか寝付けずに布団の中で寝返りを打つ。
じくじくと右肩が痛み、昨日の夜のことが現実なのだと告げる。
昨夜は霧雨だったのが強さを増し、ぱらぱらと雨が容赦無く瓦を打つ。
部屋の隅に暗い闇となって孤独が落ちる。
人払いをしたのは自分だというのに、その深い孤独に足を引き摺られて抜け出せそうにない。
伏せた睫毛を冷たい溜め息が揺らした。



もう十分苦しんだ。
父を、弟を手に掛け、母に毒を盛られ。
腹心は己の死を許さず、この地は真綿で首を絞めるように自分を縛り付ける。
家の存続の為と人を殺し、民の安寧の為と人を殺す。
殺されるのはいつも相手で、自分ではない。
斬り付ける相手に自分を重ねた回数に比例して心の柔らかい部分に治らない傷が開く。
死ねば楽になれるのか。
閉じた目蓋を揺れる蝋燭の明かりが照らす。


縋り付いた手は、右肩の傷に振り払われ、出口のない連鎖の中、振り出しへと戻る。
一人きりで越えるには高すぎる常世と黄泉の壁。
縋り付き、掻き毟ったところで崩れはしない。
爪が剥がれ、指先に血が滲み、消えない傷が増えるだけ。
布団から抜け出し、雲に姿を隠す月を探す。
鋭く突き刺す様でいて、柔らかく暖かな銀色を。
細く頼りない希望の光を。





「あけち、…みつひで……」





断絶を希望と呟く声は弱く、捻れた願望を謳う声は酷く歪む。
殺してくれないのなら、初めからこの闇に踏み込まないでほしい。
掬い上げることをしないのなら、初めからこの闇に一人捨て置いて。
縋り付いた手を振り払い、希望を切り刻むのなら、いっそ溺れ逝く自分をその高みから冷ややかに見下ろしていて。



愛も情も無く昏い愉悦の浮かぶ瞳で己を見つめる銀色の死神は現れない。
現世のしがらみを断ち切ることも、溺れきることもできない弱い自分を嘲笑うあの視線の暖かさなど誰にもわかるまい。
あの男は一時の楽園とこの苦悩の果てを見せ、安堵に流れた涙を冷ややかに見つめるのだ。


生と死の葛藤を、闇に溺れる己を赦し、歪んだ悦楽で包むあの不気味な高笑いこそが今の己の楽園なのだと気付き、政宗は薄く笑った。


End

ガチ病み宗推して参る。


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