赤色灯が回る道端で、佐助はぎり、と唇を噛んだ。
隣に立つ後輩捜査官が猿飛さん、と遠慮がちに声を掛けた。
不機嫌を顕に振り返れば怯えたように部長からですと携帯を差し出す。
携帯を耳に当てると神経質な声が佐助の失態をなじる。
なじられることにはもう慣れたのに、脳に響く上司の癖のある声が酷く癇に障る。
無念が吐いた溜息に散った。
この数ヶ月、麻薬取締官として複数の密売グループに潜入してきた佐助は、毎回逮捕まであと一押しと言うところでグループのリーダーを死なせるという失態を続けていた。
その死には元締めの暴力団が絡んでいることは間違いないのだが、それはもう佐助の管轄外の話だった。
死と隣合わせの潜入をこなし、囮を使い、検挙に足る証拠を揃えたところでいつもグループのリーダーが死ぬ。
それ以降は管轄外で手を出すことも出来ない。
このままでは辞職勧告もあり得るなあと考えてはみるもののそれならそれで仕方がないかもしれないという諦めににた気持ちまでわいてくるのだから困ったものだ。
佐助にとって辞職などたいした問題ではなく、尻切れトンボに捜査が打ち切りになっていく事のほうが重大な問題だったからだ。
悔しさと腑甲斐なさがないまぜになり、佐助は切れた電話を握った拳を凭れていた車のガラスに叩きつけた。
全てが完璧に進んでいたはずなのに、なぜ。
どんよりと暗さを増した空からパラパラと小雨が降る。
徐々に湿る鮮やかなオレンジ色の髪を忌々しげに掻き上げ、これ以上ここにいても苛立つだけだとその場を離れようと踵を返した。
立ち入り禁止のテープをくぐり、野次馬を掻き分けて人が少なくなったところでポケットから出したマルボロを咥える。
ばらばらと落ちる雨粒のせいでうまく火が点かない。
湿気ったそれを地面に投げ捨て、ぐちゃぐちゃに踏み付ける。
悔しさに俯けた顔を上げられずにいると、見慣れない高そうな革靴が立ち止まった。
佐助の上だけ雨が止む。
顔を上げると左頬に大きな古傷のある男が安いビニール傘を差し出していた。
「残念だったな。」
只者ではないと一目でわかる鋭い眼光を宿した目が細く弧を描き、嘲るように佐助を映す。
愉快そうな色を滲ませた声でそう言って、男は傘を佐助の足元に落とした。
遠ざかる黒いスーツの背中を眼球が零れ落ちそうなほど驚愕に目を見開いた佐助が見送った。
End
好きな子に意地悪したい小学生の原理です。