- コンビニの前でしゃがみ込んで煙草を吸っていた佐助がアスファルトに短くなった煙草を押し付ける頃になって小十郎は店から出てきた。
佐助を振り返りもせずにシャッターを下ろして鍵をかけている。
その背中を眺めながら立ち上がり、悴む指先に摘まんだ吸い殻を灰皿に落とした。
鍵をコートのポケットへ落とした小十郎が佐助を振り返り、顎で大通りの方角を示した。
タクシーは呼ばなかったようだ。
佐助を待たずに歩き出す小十郎の長いトレンチコートの裾が冷えた空気を孕んで膨らみ、そして翻る。
束の間の静寂に包まれる明け方の繁華街を歩く凛と伸びた背中を追って歩き出す佐助は、これは互いの精神的な位置とまるきり同じだと思う。
威風堂々と歩く小十郎は佐助を振り返らず、佐助はいつも懸命にその背中を追いかける。
そして視界に入ることができない悔しさからかしましく付き纏い、どうにかして彼を振り返らせようとする。
それをしなければ今と同じく、小十郎は佐助を見ない。
だらだらと歩き続ける佐助と小十郎の距離が広がり、いつしかその背中が見えなくなる錯覚に吐き気が込み上げる。
それを何よりも望まない佐助が、自らその足を止めようとしている。
矛盾どころの騒ぎではない。
明けきらない閑散とした通りには仕事あがりの疲れたホストがちらほらいるだけだ。
この景色も随分と見慣れた。
今更何を思うでもない。
それでも、それより見慣れているはずの小十郎の背中だけは切なくて哀しい。
どうにかして隣に並ぼうとすることをやめた今、彼を振り向かせようとすることはおこがましい事のようにさえ思うのだ。
大通りにはタクシーが列をなして客待ちをしている。
その中の一台に小十郎が近付く。
開けられた扉の前で、小十郎は初めて佐助を振り返った。
「置いてくぞ。」
足を引き摺るように背を丸めて歩いていた佐助は顔をあげたが、歩く早さはそのままで再び俯く。
白い吐息をため息にして吐き出した小十郎はしかし開いた扉に凭れるようにして佐助を待った。
「早く乗れ。」
佐助の頭を押し込むようにしてタクシーの後部座席に載せた小十郎は佐助の隣に乗り込み、行き先を告げる。
走り出した車内はエンジンとタイヤが路面を擦る音だけが響く。
黙り込んだ佐助は冷たい窓に頭をつけて動きだそうとする街を眺めていた。
小十郎はそんな佐助を視界に入れないようにして、よく磨かれた黒い革靴の爪先をじっと見つめている。
互いに今まで経験した事のない沈黙だと思った。
それはふたりの主観による判断だったが、経験した事のない事への戸惑いだけが共通している。
互いにそれを知らないふたりの間で共有されない戸惑いだけが増幅し、ともすれば発狂しそうになる静寂がふたりを頭上から押さえつけている。
程なくしてタクシーは停まった。
小綺麗なマンションの前で連れ立って降りる険悪なふたりの男を運転手はどう思っただろうかと財布の中を覗き込みながら考えた小十郎はしかし、タクシーを降りる頃にはそんな事はすっかり忘れていた。
小十郎のあとについてタクシーを降りた佐助は、タクシーに乗る前と同じようにずるずると歩く。
手にした紙袋を引き摺りそうになって持ち直し、また引き摺りそうになるのを繰り返しながら、振り返らない背中を追う。
エントランスを抜け、並ぶポストの中からチラシを抜き取った小十郎はエレベーターのボタンを押して乗り込んだ。
佐助の足が止まる。
「乗れ。」
「ねえ、やっぱ俺、帰る。」
「話さえ終わればすぐに帰してやる。早く乗れ。」
小十郎は億劫そうに顎を引いたまま睨むように佐助を見て言った。
一瞬あとずさった佐助の腕を掴んでエレベーターに引き摺り混んだ小十郎は、佐助の腕を離さないままエレベーターのパネルを操作してドアを閉めた。
至近距離で腕を掴まれたままの佐助は、身じろぎ一つできずに震える唇で細く息を吐く。
今までに感じたどれよりも激しい緊張に叫び出しそうになる奥歯を噛み締めて足元を見つめた。
「あんまり、困らせるんじゃねえよ。」
小十郎の声が低く平坦に告げた。
佐助は自由な方の手をコートのポケットに突っ込み、煙草の箱を出した。
箱を振って中身を出し、それを咥えて箱をポケットに戻した。
目的の階で開いた扉から小十郎が出る。
手を引かれて佐助も外に出た。
浅く咥えていた煙草が落ちてエレベーターと壁の隙間に落ちていった。
器用に片手で鍵を開けた小十郎は玄関に入るなり、閉じきらない扉に佐助の背中を押し付ける。
大きな音を立てて扉が閉まり、佐助は俯いて鋭く息を吐き出した。
「俺はテメェの事は嫌いじゃねえ。いれば煩えが、静かになりゃ心配もする。怪我はさせたくねえし、傷つけたくもねえ。」
突然の言葉に佐助の秀麗な眉がピクリと動き、みるみる眉間に皺が寄った。
「突然いなくなりますって言われて、はいそうですかと手放してやれるほど優しくはねえ。」
「何、いきなり。」
「店を辞めるのはテメェの勝手だが、勝手に俺の前からいなくなるんじゃねえよ。」
半瞬の間、佐助の顔から一切の表情が抜け落ち、そしてすぐに泣き出しそうに歪んだ顔が俯く。
小十郎は乾いた唇を舐めてから下唇を軽く噛んだ。
佐助の腕を握る手のひらが汗ばみ、指先が小さく震えた。
奥歯を噛み締める。
「なんで…もう、わけがわかんない。なんで、いまそんなこと言うんだよ。今までのは何だったんだよ。なんで…今なんだよ。」
俯いたままの佐助の手が前髪をくしゃりと掴み、力の抜けた小十郎の手から佐助の華奢な腕が抜けた。
佐助はそのまましゃがみ込んで膝の間に顔を埋めた。
泣いているのかと暫く丸くなった背中を眺めるが、しゃくりあげるわけではない。
ただ混乱しているだけなのか。
耳に痛いほどの静寂の中で先に動いたのは小十郎だった。
しゃがみ込む佐助の前に膝をつき、前髪を掴む細く強張った指先を解く。
乱れた髪を丁寧に直してやりながら、二人にだけ聞こえる声で言った。
「まだ俺のことが好きなら、どこにも行くな。」
佐助が喉から手が出るほどに欲していた言葉だった。
佐助の細い膝が冷たい玄関の床にぶつかって鈍い音を立てる。
ぺたりと床に座り込み、両手をゆかについたまま俯く佐助の頭を小十郎が撫でる。
「テメェの言う好きと、俺の気持ちは違うかもしれねえが、そう思う程度には、テメェは俺の中で特別だ。」
俯く頭を撫でながら言う小十郎の中で腹の底に溜まっていた何かが音もなく消えていく。
どう言う形になるにしろ、これであの不自然な関係は終わる。
妙な開放感が小十郎を包んだ。
佐助の肘を掴んで引っ張り立たせた小十郎は、佐助の顔を覗き込むでもなく言った。
「俺の話はそれだけだ。あとはテメェの好きにすりゃあいい。帰るでも飛ぶでも構わねえよ。店はどうにかなるし、俺は言いてえ事は言った。」
扉に凭れたまま顔を上げない佐助は靴を脱いで背を向ける小十郎の腕を掴み、ちょっと待ってよと呟いた。
「代表こそ勝手すぎるじゃん。俺の気持ちはどうなんの。アンタだって俺と大差ない。」
「言いてえ事があるなら聞いてやるし、一発くらいは殴られてやる。顔以外でな。」
横目で佐助を振り返った小十郎は佐助の手から逃れてさっさと居間へ上がっていく。
佐助は足元に紙袋を放り出したままその背中を追う。
居間に入った小十郎はコートを脱ぎ、暖房を入れてソファに座った。
佐助もそれに倣ってコートを脱ぎ、小十郎の足元に向かい合うように座る。
スーツの内ポケットから出した煙草に火を点ける小十郎の目が、佐助を見た。
「殴るなら煙草消してからにしてくれ。」
「別に殴らない。なんで今更特別だとか行くなとかいうの?今までのアンタの態度はなんだったの。」
まっすぐに小十郎を見る佐助の薄色の瞳が戸惑いと怒りを混ぜた色に燃えている。
咥えていた煙草を指に挟んで、ゆっくりと濃い煙を吐き出した小十郎は佐助から視線を外し、明るくなり始めた窓の外を眺めた。
「俺はテメェと違って店のことも考えなきゃなんねえんだよ。俺の個人的な理由でテメェを辞めさせたりできるか。だからテメェが諦めるのを待ってた。」
「じゃあ別に好きじゃないんじゃん。店のために俺を引き止めるわけ?」
佐助の言葉に小十郎の表情が険しくなる。
逸らしていた視線を佐助に戻した小十郎は不機嫌を隠しもしない声で言う。
「辞めてえなら辞めて構わねえよ。もともと辞めるって言い出したのはテメェだろうが。俺との話をしてんだ。店辞めてはいさよならなんてことはさせねえって言ってんだ。」
「辞めてもあんたの事を好きでいろってわけ?」
「そうだ。」
小十郎の強い肯定に、佐助の指先が煙草を探した。
脱ぎ捨てたコートを手繰り寄せてポケットから煙草とライターを出した。
なかなか火が点かないライターに佐助の指先が苛立つのを見兼ねた小十郎がライターを佐助に投げた。
受け取ったそれをしばらく眺めて、佐助はそれが自分が突き返したものだと気付く。
振り返ったテーブルの上に投げ出されている鍵はキーホルダーひとつついていない真新しいものだった。
動揺した佐助だったが、結局それで火を点けた。
佐助が突き返したものを、全て持ち歩いていたというのだろうか。まさか。
口の中で呟く。
ライターを小十郎の横にそっと置いて矢継ぎ早に二口吸った佐助は、ため息のように煙を吐き出して目を伏せた。
「アンタのために辞めるって言ったんだ。アンタ、俺のこと迷惑がってたろ。」
「ああ。めんどくせえと思ってた。煩えし、手がかかる。」
言いながら小十郎は喉の奥で笑った。
次は佐助が表情を険しくする番だった。
「好きだなんだって喚く割には、優しくすると逃げる。優柔不断で馬鹿でなに考えてるかわかりやしねえ。」
「アンタだってなに考えてるかわかりやしない。」
「言わなかったからな。」
小十郎の言葉を遮るように言った佐助の言葉に笑った小十郎は続ける。
「めんどくさくても居ねえと落ち着かねえんだ。テメェにその気があるならここにいろ。」
「俺、わがままだから叩き出したくなるかもよ。」
「そうなったら叩き出す。でもどうせ今回と同じことになる。」
「何なの?ほんと何か企んでんの?俺もう店辞めて地元帰るからマジで。」
「二週間に一回は会いに来い。電車代くらい出してやる。それくらいで丁度いいかもしれねえしな。」
「何の冗談?店で働いてない俺なんて傍に置いとくメリットは代表にはない。」
「それは俺が決めることだろ。テメェこそいつまでも逃げてんじゃねえ。」
のんびりとした声で言った小十郎は短くなった煙草をテーブルの上の灰皿に押し付け、急に固い声で言った。
煙草のフィルターを唇につけた佐助はその手をおろした。
黙り込む佐助に一つため息をついた小十郎は手を延ばして佐助の細い髪を梳いた。
「ここにいるのかいねえのか、俺が聞きてえのはその返事だけだ。」
手を振り払うでもなく好きにさせる佐助が俯いた。
長くなった灰が折れ、佐助のジーンズを汚す。
それを払うこともしない佐助はポツリと小さな声で言った。
「代表が、好きだ。」
「ああ。」
「だから…だから、ここに、いたい。だけど、失うくらいなら、最初からいらない。だから、もう、欲しがらないって…」
語尾は掠れて消えた。
黙って聞いていた小十郎は着けたままのネクタイを外してワイシャツのボタンを開けた。
小十郎はポキリと首を鳴らし、新しい煙草を出して火を点けた。
「欲しいって言えば手に入るものを、欲しいと言えない理由はなんだ?」
「失いたく、ないから。」
「なら失わない努力をしろ。馬鹿だ馬鹿だと思ってたがここまでだとはな。」
ため息に煙を混ぜて吐き出した小十郎を佐助が睨みつける。
「俺の事が信用できないならそれでも構わねえが、テメェを俺のもんにしてやるって言ってんだ。好きなだけ甘えてりゃいい。難しく考えてんじゃねえ。」
「代表に、俺の気持ちなんてわからない。いつもいつも、置いて行かれるだけの俺の気持ちなんて、」
「当たり前だろうが。俺は俺でテメェはテメェだ。わかれって言うならきちんと話せ。何があって突然こんな事を言い出した?」
鷹揚に煙を吐き出した小十郎は遮るように言って佐助の言葉を待った。
曖昧にぼかし続けた関係に、先に耐えられなくなったのはどちらだろうか。
いつでも来るものは拒まず、去る者は追わなかった。
無理矢理手元に残そうとした事などなかった。
過去の女も、客も従業員も。
嫌なら去ればいいと思っていた。
だが、佐助にだけはそれが通用しない。
近付けば逃げるだけだと知りながら、離れる事は許せない。
しかし、それに追い討ちをかけたのはどうやら自分ではない。
自分の知らないところで佐助に何かが起こった。
それを解決しないことには哀れなほどに頑なな佐助は頷かないということだろう。
「みんな、俺を置いて行くんだなと、思っただけ。」
「なんでそう思ったか聞いてるんだ。」
「なんでだっていいでしょ。代表には関係ない。」
小十郎は苛立ちまかせに煙草を灰皿に押し付けた。
伸ばした腕に佐助が肩を強張らせるのが小十郎の苛立ちを増幅させ、腹の底に言い知れぬ不快感が澱となってよどむ。
「話しもしねえくせにわかってねえだの言われる筋合いはねえ。関係ねえって言うなら俺との関係にそれを持ち込むな。あんま筋の通らねえことばっか言ってると犯すぞ。」
眠気と疲労で半分据わった目で言う小十郎を佐助が睨みつける。
できもしないくせに、とは声にしない罵倒だ。
「アンタに話したところで何も変わらない。だから、話す必要ない。」
「…わかった。なら仕切り直しだ。俺のことが好きなのに俺のものになれない理由はなんだ?」
佐助はあぐらを辞めて膝を抱えた。
もう逃げ出すだけの理由が見つからない。
膝頭に額をつけて囁くように言った。
「アンタに、捨てたれたら立ち直れる気がしないから。捨てられるくらいなら、最初から拾われない方がいい。それだけ俺は本気で、代表が思ってるよりも代表が好きなんだ。」
「俺のことが信用できねえか?」
「今まで曖昧だったのは代表でしょうが。それを突然…」
佐助が黙りこみ、痛いほどの沈黙が二人の頭を押さえつける。
ただ一言、佐助にここにいると言って欲しかった。
そう言われれば、誰にどう言われようとも手放すつもりはない。
店に残ると言うなら小十郎の威信にかけてでも2000万プレイヤーにしてやるし、佐助の望むように甘やかしてもやる。
その一言を待ち続けるだけの時間は無為に長い。
秒針の音が静寂を刻む。
「代表は、」
フィルターを焦がした吸い殻を灰皿に押し付けた佐助がゆっくりと口を開いた。
「俺が好きなの?」
「さあな。…ただ、テメェを手元に置いておきたいだけだ。」
「俺のこと、好きになってくれるの?」
「努力はする。」
「俺、代表が思ってるよりもアンタが好きだよ?重たいかもしれないよ?」
「それはそれで悪くねえ。」
「本当に、どこにもいかない?」
「約束する。」
幼稚園児でも相手にしている気分だった。
本当?絶対?と小十郎に問い続ける佐助の腕をソファに引っ張りあげた小十郎はもう黙れと言って佐助を抱き締めた。
「で、返事は?」
「ここにいる。だから、どこにもいかないで。ひとりは嫌だ。」
「テメェが俺を好きな限りひとりにはしねえよ。」
漸く黙った佐助の腕が小十郎の首にまわり、しがみつくように抱き締められる。
その腕の強さが、思いの強さのような気がした。
「これって色管理?」
「そんな事しなきゃなんねえ程うちの店は困ってねえよ。」
佐助の表情がやっと緩み、小十郎の鼻先で笑った佐助が言うのに、小十郎は眉間に皺を寄せて答える。
「客にやきもち妬かないなら店辞めない。」
「妬いて欲しいくせに何言ってやがる。」
「あれ?何でわかったの?」
「テメェの考えてる事なんざお見通しだ。店辞めるかどうかはゆっくり考えろ。俺はどっちでもかわまねえ。」
胸に蹲る佐助の頭を振ってぐしゃぐしゃと撫でた小十郎は立ち上がり、風呂場へ向かう。
一緒に入る?とからかう佐助に、犯すぞと返して脱衣所の扉を閉めた。
湯船に浸かったらそのまま眠ってしまいそうだった。
スーツが皺になるのも構わずに足元に脱ぎ捨て、久しく感じていなかった駆け引きの疲れに身を任せてシャワーを浴びた。
疲れと安堵のため息が、湯の匂いが充満する浴室で霧散した。
雑に頭を洗っていた小十郎の背後でそっと扉が開き、佐助が泊まってもいい?と顔を出した。
「好きにしろ。テーブルの上の鍵と、ソファのライターとスーツのポケットの中の腕時計、回収しとけよ。」
「…うん。あのさ、」
「ちょっと待て。」
そう言って頭の泡を洗い流す。
背後で扉が閉まった。
急ぐわけでなく、のんびりとシャワーを浴びて、浴室を出ると脱ぎ散らかしたはずのスーツが綺麗になくなっていた。
おざなりに体を拭き、下着だけの格好にバスタオルを頭にかぶって居間に戻るとソファに寝そべった佐助が朝の情報番組を見ながら煙草を吸っている。
傍には小十郎が脱いだスーツが置いてあった。
「時計、あったか?」
「代表何そのたまんない格好。やべえ俺もう勃ちそう。」
「うるせえ変態。返事をしろ。」
「鍵もライターも時計も回収しました。あとは代表に抱いてもらうだけで万事オッケー。俺たち一応付き合ってるんだからもうセックス解禁でしょ。早くヤろういますぐ。」
立ち上がって寄って来る佐助の後頭部を叩いた小十郎は明日も仕事だと言ってテーブルの上の煙草の箱を掴み、中身を咥えてライターを探した。
目の前に火がかざされる。
小十郎がやったライターだった。
「漸く使う気になったのか?」
火に煙草の先を寄せながら唇の隙間で問う小十郎に、小さく笑った佐助が答える。
「プライベートでだけね。もうアンタに執着するのは辞めるんだ。」
「おい、付き合った途端それか。」
「そんなことしなくてもアンタここに俺を置いてくれるんだろ?それに、俺が突き返したもの全部持ち歩くくらいには俺の事が好きみたいだし?」
勝ち誇ったように唇の端を釣り上げた佐助が裸の胸に擦り寄る。
まあそういうことだがと考えた小十郎は、それには答えずに佐助の形のいい後頭部を撫で、風呂は?と聞く。
「俺、朝シャン派だから起きてから入る。」
「じゃあ寝るぞ。眠くて仕方がねえ。」
小十郎は胸に擦り寄る佐助はそのままでテーブルの上にあったリモコンでテレビを消し、纏わり付く佐助を引き摺るようにして寝室へ向かう。
佐助をベッドの上に放り出して自分と佐助の分のスウェットを出し、初夜なんだから早くヤろうと喚く佐助の顔に投げ付けた。
「ちょっ!代表もっと優しくしてよ!俺様繊細なんだからね!!すぐ傷ついちゃってガラスのハートがブロークンしちゃう。」
「テメェみたいな馬鹿にはこれくらいが丁度いいんだ。俺は5時には出勤するからな。テメェは好きに寝てろ。」
ベッドの上で小さくなりながら脱いだジーンズを落とす佐助は俺も一緒に出るから起こしてと言う。
着替え終わった小十郎は枕元の灰皿に煙草を押し付け、のろのろと着替えている佐助をどけてベッドに潜り込んだ。
「明日同伴だから一回着替えに帰らなきゃ。同じシャツ着てくわけにもいかないし。」
「あんまり頑張りすぎると元親抜くことになるぞ。」
「もう腹立つから政宗さんも抜いてアンタも超えるの。決めたの。代表も協力してよね。」
着替え終わった佐助はバサバサと布団を整えながら甘えるように小十郎にしがみつく。
今にも目蓋の落ちそうな目で佐助を一瞥した小十郎は店を辞めるのは辞めかとあくび混じりに問うた。
「当たり前でしょ。代表とせっかくラブラブなのに遠距離になる必要ないし。」
「そうか。ならもう色管理だとか喚くなよ。」
それはどうかなと呟いた佐助の腕の中で小十郎はすっかり目を閉じて寝息を立てている。
え、ちょっと初夜と揺さぶってみるが小十郎は身じろぎ一つしない。
佐助は小さくため息をついて興奮に落ち着かない目を閉じた。
End
愛でも恋でも構わない。あなたがここにいるなら。