毎日繰り返しテレビから垂れ流される痛み。
それを佐助はぼんやりと見ていた。
親が子を殺し、見知らぬ誰かを理由もなく殺す。
互いの荒を探し、重箱の隅を突くように些細なことを罵倒し合う政治家。
マニュアル通りのアナウンサーと、奥歯に物が挟まったコメンテーター。
佐助は夕陽が染める赤い部屋のソファの上で膝を抱えた。
記憶に甦る赤揃えの具足。
火薬と血の匂い。
信念と大儀のために散った命。佐助が奪った、それ。
天下を、天下の安寧を願って繰り返された戦。その咆哮。
愛するものを諦めてでも手に入れたかった、安穏の日ノ本。
あれから何百年たったいま、繰り返される命のやり取りは、その重さを忘れ、平和の為に死んで逝った全てを愚弄するかのように易々と行われる。
虚しかった。
何のために戦ったのかと。
奪うことでしか生きることを赦されない時代を呪い、しかし大義という言い訳を振りかざして戦った自分達は果たして正しかったのだろうか。
無感情なアナウンサーが、また死を告げた。





窓の外が闇に染まり、佐助がそれに落下した頃、同居人が帰ってきた。
点けたままのテレビからは芸能人の作りものめいた笑顔。
向かい合う無表情。
小十郎はテレビを消した。


「どうした。」


わからない、佐助は答えた。


俺様たちは、何のために戦ったんだろう。
変わらない、国取りに必死だったあの頃と。
何も、変わらない。
見せ掛けの平和のためだったのかな。
本当は誰も戦いたくなんてなかったはずなのに。
こんな未来のために、戦ったのかな。
アンタに好きだとも言えないまま、こんな未来のために、戦ってたのかな。






静かに、しかし饒舌に語る声は小十郎の胸を刺した。丸くなった背中を撫でる。
指先に痛みが伝わる。
震えた背は泣いていた。
涙も流せず、声も上げずにただ、寡黙に泣いていた。





あの時の俺達は無知だった。
世界なんて知らなかった。
この狭い日ノ本が、奥州が、甲斐が全てだった。
そのために戦った。
安寧を願う気持ちは今も昔もかわりはしない。
俺はまたお前に出会った。
結ばれた。
見せ掛けの平和しかないこの世界で、お前と穏やかな日々を過ごしてる。
今の俺にはお前との穏やかな日々を守ることしか出来ねぇ。
お前もそうだ。
だから、それを大事にすればいい。
みんながそうやって生きれば時間がかかっても必ず俺達が目差し、命を捧げた未来が来る。
あの戦いだらけの日々は必要だった。
だから今日の日本がある。
過去を悔いる必要も、忍だったお前を蔑む必要もない。
今はまだ、未来への途中だ。
かつて俺が政宗様を守ったように、今の俺はお前と、この日常を守ってみせる。
だから、泣くな。





佐助はちいさく頷いた。
そして言った。
今の俺も、前の俺も、あんたを失うのが酷く恐ろしいんだ、と。










「だからはやく、せかいがへいわになればいい。」










End

世界に平和を、すべての民に安寧を。

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