親 愛 な る 君 に 告 ぐ 。

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その日は憂鬱なくらい天気が良かった。ついでに言うとボスである綱吉は家族(といっても妻の京子と家光、そして日本から呼び寄せたママンだけだが)を連れてバカンスに出掛けてしまっているし、来週から二人で休暇を取ることになっている武と隼人はボンゴレの持つセコンド・カーサのどこへ行くかという相談に余念がないし、了平はとっととハルをつれて日本へ里帰りと来たものだ。休日ボケした脳みそ空っぽの守護者連中を相手に仕事など進むはずもなく、おとなしく綱吉が残して行った事務作業を一日こなした。
乾燥した熱風を遮るクーラの効いた室内で過ごせたことがせめてもの救いか。
(それにしても今年の夏は猛暑すぎる気がする。)
綱吉と入れ替わりに与えられた長すぎるバカンスをどう過ごすかなど露程も興味の持てないリボーンはこの国のお祭り気分さえ鬱陶しく思う。海でも山でも田舎でも、好きなところに好きなように行けばいいが、仕事を放り出すのだけは勘弁していただきたい。
そんなお祭り気分の浮かれた連中ばかりがゴーストのように歩き回るアジトに一日中閉じ込められれば、ゴーストタウンと化した夏のバカンスの時期のローマに取り残された唯一の生者、と言う気分になるのも致し方がないだろう。もう頭が痛い。
そんな日中を過ごし、ゴーストたちがいなくなったひっそりとしたアジトで昼間に進まなかった仕事を一段落させて帰路へつく。この国のどこへ行ってもアジトと同じ現象が起こっているのだから、リボーンの気が休まるのは自宅だけだ。
一緒に住んでいる男はまだバカンスが決まっていないのか、そんな態度は一切見せない。そこだけは見直した。
一気に人の少なくなった街角を足早に通り過ぎ、住処にしているアパートの階段を上る。一日中書類と睨めっこしていたせいで痛む目頭を押さえながら傷だらけの鍵を回す。もしかすると良く手入れしている愛銃よりもこの鍵の方が傷だらけなのではないだろうか。
夜も夜中なので、なるべく音を立てないようにドアを開けると、部屋の中は真っ暗だった。今日は夜中に出て行くという話は聞いていないしもう寝たのか、遊びに行ったのか、と小さく溜息をついて手探りでダイニングの小さな電気をつける。
冬でも夏でも仕事にいく時は脱ぐことのない黒いスーツのジャケットを、ダイニングの椅子の背にかけようとしてリボーンの手が止まった。
テーブルの上に出したままの食器は二人分。食べ残されて冷めているピザと、ボトルの3分の1ほど残されたワイン。そして、ふたつあるワイングラスの片方に着いた真っ赤なルージュ。
(俺とアホ牛がただのルームメイトなら空気を読んでもう一度出て行くところだが、残念ながら俺達はルームシェアではなく同棲しているわけで)
(何より苦手な書類処理に一日を費やした俺の機嫌は最悪なのだ。)

「……殺す」

呟いたリボーンの殺気を感じ取ったのか、レオンはボルサリーノの中へ潜り込んだ。脇につけたホルスターに手をかけ、気配を消すこともしないで一直線に寝室へ向かう。
リボーンの予想が正しければ、同居人はそこで女と眠っているはずである。
閉まっているドアを蹴破るように開けると、ベッドの上の膨らみが動いた。

「死ね」

言葉とほぼ同時に撃った弾丸をよけた男はあくびを噛み殺しながらベッドを降りた。普段から酷いくせ毛が更に酷いことになっている。隣に寝ていた女は悲鳴をあげてリボーンと男を交互に見る。
その慌てように、まさかこの男がマフィアと知らずに寝ていたのか、気の毒なことだ、と他人事のようにぼんやりと考えた。
(残念ながらこの男は世界の裏社会の大半の実権を握るボンゴレの幹部であり、ボヴィーノの殺し屋でもある男だ。)
(入ってきたのが俺であったことに感謝してほしいくらいだ。)
床に落ちていた白のワンピースを女に投げ付け、銃でドアの方を示すと女は慌てて服を着はじめた。

「今日は帰って来れないんじゃなかったの?」
「思ったよりも早く終わったんでな。」

小さく首を傾げ、殺気立ったリボーンとは対照的な寝起きの柔らかい声で問うたランボの額に照準を合わせたままのリボーンは不快感を露にボルサリーノの下で凄んでみせた。何年経っても進化しないバカ男。

「ごめんね、過激な恋人が帰ってきちゃった。また今度埋め合わせするからさ、機嫌治して?」
「冗談じゃないわよ。」

そう告げて優男らしく微笑んだランボだったが、女は吐き捨てるように言うと高いハイヒールを鳴らして部屋を出て行った。
(黒髪で色の白い、自分によく似た女だった)
(だからますます質が悪い)
あーあ、ふられちゃったなぁ。リボーン空気読んでよねー。
女の華奢な背中を見送ったランボは再びベッドに寝そべって、恨めしそうにリボーンを見た。
朝から蓄積された鬱憤がリボーンの脳内ではじけ飛びそうなほどに膨れたが、返答によってはこの男をここで始末しておかなくてはならないことを思い出してリボーンはそっとベッドに寝そべるランボの上にまたがった。
眉間に銃口を突きつける。
ランボは相変わらずふてくされている。

「ヤッたのか?ここで」
「そりゃあねぇ。ってゆうか、その物騒なものそろそろ片付けてよ」

無表情に殺気を滲ませるリボーンを気にすることなく、ランボは眉間に突きつけられた銃身を人差し指でこつこつと叩いた。

「その前に何か言うことがあるんじゃねぇのか?アホ牛。」

ずい、と身を乗り出したリボーンの右手を左手で掴み、もう片方でボルサリーノを床に落としたランボは、リボーンの形のいい後頭部に手を添えるとその小さな頭を引き寄せてキスをした。リボーンはほだされてしまわないように目は閉じないままでいた。絡ませた舌の先からルージュの匂いがしたから舌を噛んでやった。ざまぁみろ。
いったいなぁ、と唇を離したランボはぺろりと舌を出した。
少しだけ溜飲の降りたリボーンはランボに銃を向けたまま、嘲りの意を込めて残酷な形に唇を裂いた。
それを見たランボも満足そうに笑い、エメラルドの眸を細めてリボーンの後ろ髪を強く引いた。そして、そうだ、言い忘れたことがある、と仰け反ったリボーンの首筋に犬歯を立てて噛み付き、上目にリボーンを見て言った。

「今年のバカンツァはポルト・ラファエルにあるボヴィーノのセコンド・カーサに行こう。」

End

仕方がない、今年はお前の提案を呑もう。



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